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【作品紹介】『生か、死か』、『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』、『さよならを待つふたりのために』

Montag Booksellersが月に一度発行している「海外文学を応援するフリーペーパー『森のなか』」(2017年2月号)に掲載した海外文学レビューを転載します。


『生か、死か』(早川書房) マイケル・ロボサム (著)|越前 敏弥 (翻訳)

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【英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞】
ご紹介するのは、あのスティーヴン・キングが絶賛したというミステリ作品です。
主人公のオーディ・パーマーは、4名が死亡した現金輸送車襲撃事件の犯人として刑務所に服役しています。いよいよ明日が出所日という日に、なんとパーマーは脱獄を果たします。

「あと1日待てば自由の身になれたのに、なぜ脱獄したのか」。

序盤でとても魅力的な謎が提示されます。そして物語が進むにつれ、その答えが次第に明らかになっていきます。

刑務所の中で、オーディは何度も殺されかけました。しかし、看守や他の受刑者たちからの度重なる暴行にも耐え続けることで、次第に周囲から認められるようになります。
そして、モスという名の服役囚と親友になります。オーディの脱獄後、FBI特別捜査官のデジレーがモスに脱獄の理由を尋ねますが、親友のモスでさえその理由はわかりません。刑務所での度重なるいじめを見ていたモスはデジレーにこういいます。
「あんたはあの男がなぜ逃げたのか知りたいと言うが、そいつは質問がまちがっている。なぜもっと早く逃げなかったのかと訊くべきなんだよ」

モスは何者かの指令によって刑務所から釈放されます。そしてオーディを探すよう命じられます。果たして自分を釈放した黒幕は誰なのか。分からないまま、モスはオーディを探しにいきます。

FBI捜査官のデジレーは独自の調査の結果、オーディ逮捕のきっかけとなった現金輸送車襲撃事件の裏に何か組織的な陰謀が潜んでいることを突き止めます。しかしその直後、オーディ脱獄事件の担当から外されることになります。逃げるオーディとそれぞれの思惑でそれを追う人たち。物語は複雑に絡み合っていきます。

オーディには最愛の女性がいました。名はベリータ。彼女はもうこの世にはいません。オーディの脱獄は、ベリータと生前に交わしたある「約束」を果たすためでした。
その「約束」が一体何なのかは、ぜひ本書を読んてからのお楽しみです。
2段組で450ページ越えというボリューム満点の作品ですが、それぞれのキャラクターがとても魅力的で作品に入り込みやすいので、あっという間に読むことができます。オススメです。


『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』(早川書房) カート・ヴォネガット・ジュニア (著)|浅倉 久志 (翻訳)

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この何とも愛らしい、まぬけな表紙の小説は早川書房のSFのレーベルから出版されています。(カバーイラスト:和田誠)しかしこの小説には宇宙人、地底人、あるいは最新の科学兵器といったいわゆるSFちっくなものは一切出てきません。その代わり、SFというジャンルの魅力については、まさに私の思うところと同じように声高に語られているのです。

エリオット・ローズウォーター氏はアメリカでも屈指の名家の跡取り。彼は兵役につき戦場へ赴いたことを機に、財産や権力といったものにはウンザリし、酒に溺れるようになります。ある日、エリオットはSF作家たちの集まりの前へふらふらと出て行き、酔っ払い特有のめんどうな演説をたれてきました。それは「自分はSF小説しか読まないし、SFを書く作家がすきである。それはSF作家のようなものたちしか、テクノロジーや自然環境の変化によって人間がどう影響され、どう世界が変わっていくかを真剣に考える連中はいないから。」といった旨のもの。これはSFというジャンルの魅力を端的に語っていると思います。

さて、この物語は単によっぱらい男が暴走するだけにとどまりません。エリオットは飲んだくれだけではなく、影ではキチガイと呼ばれていました。というのもある日から突然、彼は理解不明な用途へ金をばら撒き始めたのです。彼が金と時間を捧げた人々は、ほんとうにどうしようもないんです。例えばその一人にはエリオットへ電話で人生相談を行うことが日課になっている老女がいます。彼女は作中でも散々な扱いで、ブスでバカで誰にも愛されたことがないとまで説明されています。ではなぜ、エリオットは奇行に走るのか。そこがこの物語のキモなのです。

「何の役にもたたない、無能な人々をわたしたちは愛することができるのか」

昨今、人工知能がどんどん賢くなり、巷では「〇〇年後、人工知能によって置きかわる可能性の高い職業ランキング」等話題に上がるようになりましたが、同じことが作中でも言及されています。つまり、賢くなった機械によって人間の仕事はどんどん奪われ、ほんの一握りの専門家以外は仕事のない「役に立たない」な人間になる可能性があります。

その時やはり金だけはあっても「役に立たない」エリオット、ひいてはわたしたちは、同じような人々を愛することができるのか、という実験が行われているのがこの小説です。
結末は…どう思ったか聞かせてくださいね。


『さよならを待つふたりのために』(岩波書店) ジョン・グリーン (著)|金原 瑞人 (翻訳)

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小児がん患者が主人公のお話、といえばパッと頭に浮かぶのは、お涙頂戴の感動モノという構図ではないでしょうか。しかし、この話はがん患者を主人公とした、れっきとした青春小説です。

主人公のヘイゼルは16歳。13歳の時、甲状腺がんを患い、死の淵に立たされるも新薬がきいて奇跡的に寛解していています。とは言っても、肺に転移したがんのために常時酸素ボンベを引っ張って歩いていなければなりません。学校にも病気のせいで13歳から行っていません。親友は両親と「生きている人間の中でがん患者の苦しみを唯一わかっていそうな作者」が書いた本だけ。

お涙頂戴の典型パターンにおいて、がん患者は生きたいと必死に願っている場合が多いものです。一方彼女は自分の命に対して諦観していています。そんな諦めきった彼女を心配して、母親は無理矢理がん患者同士のサポートグループの集会に彼女を送り込みます。

そこで出会ったのがオーガスタス。高校で優秀なバスケットボール選手でしたが、骨肉腫を患い、片足を失った「元」がん患者です。引きこもりがち、病に侵され、難しい本が好きなヘイゼル。明るくて、病から生還した、スター・ウォーズ好きなオーガスタス。対照的な2人は互いに惹かれ合っていくものの、自分の寿命が残りわずかであろうこと、オーガスタスは以前のガールフレンドも病気で亡くしていることからヘイゼルには付き合うことに対して後ろめたさやためらいがあります。それでも、友達以上恋人未満の関係を続ける彼らの電話やメールでのやりとりはティーンエイジャーを経験した誰もが共感できるはずです。いつまでも終わらない電話。趣味について熱く話すこと。相手の幸せにとって自分は何なのか悶々とすること。

「14ヶ月も付き合ったのに失明した途端音沙汰がない」
と嘆く眼腫瘍の友達から「もうママにはなりたくない」と嘆く母の姿をICUで意識が混濁する中聞いてしまったヘイゼル。
自身の秘密をいつヘイゼルに告げるか悩むオーガスタス。愛の種類も、それに伴う悩みも登場する人物によって様々。

この物語は「生きること、愛することの素晴らしさ」を提示するのではなく、時に理不尽で、時に痛みを伴う、それでも何か私達の思考をひきつけてやまない「生」や「愛」は一体何だろうと問いかけてくれます。病を扱う性質上、決してハッピーエンドではありません。しかしながら、読後感は悲壮感や感動ではなく、自分の身近にある愛を思ってやさしくあったかい気持ちになれる小説です。