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【イベントレポート】読書会 『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ著) レポート

10月某日、Montag Booksellersで小さな読書会を開催しました。

課題書はレイ・ブラッドベリの『華氏451度』です。Montag Booksellersというお店の名前は、この『華氏451度』の主人公、ガイ・モンターグから頂戴しました。

そのあたりの理由については、読書会の告知分の中に触れていますので、そちらをご覧ください。

参加者はほぼ定員どおり4名(1人体調不良により欠席)。
個人的な経験から、大人数だと発言の機会が少なくなる人が現れたりするので、読書会の最適な人数は4~6名ではないかと思っております。

『華氏451度』は早川書房から何度かバージョン違いのものが出版されており、現在書店で入手できるのは、2014年に刊行された伊藤典夫さん翻訳の「新訳版」です。

私はずいぶん昔に購入していましたので、宇野利泰さん翻訳のバージョンです。参加者のうち3名が旧訳で、しかもカバーデザインも同じものでした(残りの1人は電子書籍でした)。
個人的には、このカバーが一番素敵だと思っており、この本が3冊揃ったことがとても嬉しかったです。今でも古書店などで目にすることが多いので、見つけたら購入するようにしています。気に入った本は何冊持っていてもいいものです。

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さて『華氏451度』は、いろいろな読み方ができる作品です。

私は、出版業界に身を置いている立場として、どうしても「本」(=物体としての本)にフォーカスした読み方をしてしまいます(つまり、「やっぱり本って大事だよね」的な)。

しかし参加者の方は少し違った読み方をしていました。

大事なのは本に書かれている「中身」なのであって、「本そのもの」ではないのではないか。

この作品は「本を所持することが禁止された近未来」が舞台となっています。そのような状況下で、例えば、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』の価値(中身)を誰かに伝えるには、どうすればよいのでしょうか。答えは、「記憶する」こと。つまり本の中身を暗記する=自分自身が《書物》になってしまうことで、本の価値を後世に伝えていくのです。

かつて人類は、大事な情報や後世に伝えるべき物語はこのような「口伝」で伝わっていたはずです。作品の終盤で、モンターグはこのように自らを《書物》化する人々に出会います。

確かにこの作品では、「紙の本こそが大事である」というようなことは述べられていません。(そもそもこの作品が書かれた時点では、電子書籍は登場しておらず、紙か電子かという現代的な議論は存在していません)。

あるときは「紙の本」であり、そしてあるときは「人間の頭の中にあるもの」として、書物は語られます。

「本の価値ってそもそもなんだっけ?」という根本的な問題を考える上で、本書に触れる意味は大きいと思います。

また、本を読むのが禁止されたこの作品世界が本当にディストピアなのかどうかという意見も出ました。

モンターグの上司ビーティはこのように言います。
「きみ自身、その胸にきいてみるがいい。おれたちが欲しているものはなにかとな。幸福にくらすということだけだろう。みんながみんな、幸福になりたがるのは当然のことだ。そして事実、だれもが幸福にくらしている。しかし、それはおれたち焚書の仕事を受けもっているものが、そのようにはからってやっているからなんだぜ」

作中では人々は、本の代わりに超小型ラジオ「海の貝」を耳にはめこみ、家では巨大なテレビスクリーンが装置されている「テレビ室」で一方的に流れてくる娯楽に身を委ねて、何も考えずに楽しく暮らすことができます。

上司ビーティのいうように、作中の人々(例えばモンターグの妻ミルドレッド)は決して不幸には見えず、むしろ何も知らないからこそ幸せそうに見えます。

もちろんこれは管理社会の罠なのですが、ほとんど悪人らしい悪人が登場しないというのも本作の特徴かもしれません。ビーティやその他のファイアーマン(焚書係)も、自分自身の職務を全うすることに一生懸命な、真面目な人物と見ることもできます。

本の価値とは何なのか、管理社会(現代日本が管理社会でないと断言できる人はいませんよね?)の怖さを教えてくれる一冊として、とてもオススメです。

最後に、参加者のみなさんの「燃やしたい本」=大事な本を紹介してレポートを終えます。これらの本が燃やされてしまったら大変だ、という観点で見ていただけたらと思います。

今後も定期的に小さな読書会を開催していく予定ですので、みなさんお楽しみに!

【燃やしたい本】

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『新版 指輪物語』 J.R.R. トールキン:著 瀬田 貞二:翻訳 評論社

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『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』 影山知明:著 大和書房

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『百年の孤独』 ガルシア・マルケス:著 鼓 直:翻訳 新潮社

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『WATCHMEN』 アラン・ムーア:著 石川 裕人:翻訳 小学館集英社プロダクション